Department of Immunology,
Graduate School of Biomedical and Health Sciences

2026.08.25

山根慶大さんらの論文が Cell Reports に掲載されました

2026年8月25日
山根慶大さんを筆頭著者とする研究成果が、国際学術誌 Cell Reports に掲載されました。

EBウイルス由来因子を利用して「見えないがん」を免疫に見えるようにする新たな戦略を発見

免疫チェックポイント阻害薬をはじめとするがん免疫療法は大きな成果を上げていますが、多くの固形がんでは十分な治療効果が得られていません。その大きな要因の一つとして、がん細胞が免疫系から認識されにくい「低免疫原性」状態にあることが知られています。

本研究では、エプスタイン・バー(EB)ウイルスが持つタンパク質 LMP1 に着目し、この分子が固形がん細胞の免疫原性を著しく高めることを明らかにしました。さらに、その作用を担う転写因子 Spi-B と IRF1 を同定し、これら2つの因子だけで同様の抗腫瘍免疫を誘導できることを発見しました。


研究のポイント

本研究では、LMP1を導入した腫瘍細胞がMHCクラスIやCD80などの免疫活性化分子を高発現し、CD8陽性T細胞を効率よく活性化できるようになることを示しました。さらに、LMP1は内在性レトロウイルス由来抗原の提示を促進し、腫瘍特異的なT細胞応答を誘導することが分かりました。

その分子機序として、LMP1シグナルの下流で転写因子Spi-BとIRF1が中心的な役割を担うことが判明しました。Spi-Bは主に共刺激分子CD80の発現を誘導し、IRF1はMHCクラスI発現を制御し、両者を同時に発現させることで、LMP1を用いなくてもがん細胞自身が強力なT細胞活性化能を獲得することを見出しました。

マウスモデルで強力な抗腫瘍効果を確認
マウス腫瘍モデルを用いた実験では、Spi-BとIRF1を導入した腫瘍細胞はCD8陽性T細胞による免疫監視を誘導し、腫瘍増殖を大きく抑制しました。また、一部の腫瘍細胞だけにこれらの因子を導入した場合でも、腫瘍全体に対する免疫応答が活性化されることが示されました。

今後の展望
近年、mRNA医薬や脂質ナノ粒子(LNP)技術の発展により、体内で転写因子を発現させる治療法が現実味を帯びています。本研究成果は、固形がん細胞そのものを「抗原提示細胞のような状態」に変換する新しいがん免疫療法の基盤となるものであり、免疫チェックポイント阻害薬が効きにくい「コールド腫瘍」の治療戦略として期待されます。

論文情報
Title: Spi-B and IRF1 activate tumor immunogenicity downstream of the Epstein-Barr virus protein LMP1
Authors: Keita Yamane, Yohei Kawano, Shun Ohki ほか、Tomoharu Yasuda

Journal: Cell Reports
DOI: 10.1016/j.celrep.2026.117824

※本研究は広島大学大学院医系科学研究科免疫学を中心に、静岡県立大学との共同研究として実施されました。